2020年7月25日出版、中公新書から出版されている著者 石原比伊呂『北朝の天皇「室町幕府に翻弄された皇統の実像」』を読んでみた感想と評価を記しておきます。
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『北朝の天皇』内容について
大覚寺統・持明院統の争いと鎌倉幕府の関わりから南北朝時代、室町・戦国時代までを記しています。
南北朝時代以降については南朝(主に後醍醐天皇)に触れつつ、朝廷と足利家の関係性について詳しく述べられています。特に南北朝統一をした足利義満と北朝の歴代天皇について詳しく述べられています。ほかには義教・義政あたりについても詳しく記述されており、幕府と朝廷の関係性に着目しながら中世の歴史を知ることができます。
南北朝時代についての書物の中には南朝びいきとも取れるものが多くありますが、この書物は中立的な立場にあり公正な観点から歴史を見ることができる点は良い点だと感じました。
有力説や著者の採用する学説を軸に説明されている印象です。
難易度について
難易度については少々高め。登場人物もそれなりにおり、中世についてある程度の前提知識がなければスラスラ読んでいくことは難しいのではないかと感じました。ただし「初学者だけど この本を通じて中世の朝幕関係を学んでやる!」と意気込んでいる方であれば十分完読可能な難易度ではあります。
また、説明はついているものの初学者にとっては難しい単語が多いと感じました。ある程度スラスラ読み進めるためには、最低でも「両統迭立」「観応の擾乱」レベルの単語や、中世の歴代天皇と室町幕府に関する最低限の知識は軽く確認しておいた方が良いでしょう。
この本を読む意義
現在の天皇家は北朝の血統であるにもかかわらず、南朝が正統であるとされていることや一部の歴史好きによる南朝人気は非常に興味深いトピックです。
また、昨今の皇位継承問題の解決策としてGHQによって皇室離脱を強いられた11宮家に復帰していただくという方法が提案されていますが、11宮家の全てが北朝第3代崇光天皇の血統です。皇位継承問題を語るには南北朝問題によって生まれた伏見宮について知ったうえで検討することが重要であり、この本はたいへん魅力的なものであると感じました。