こんにちは!神職の けん です。
神社によって、本殿の形が違うことをご存じでしょうか?
神社の社殿には屋根の形や入口の位置、千木や鰹木など、さまざまな違いがあります。
代表的な建築様式だけでも下記の通り、さまざま種類があります。
- 神明造(しんめいづくり)
- 大社造(たいしゃづくり)
- 住吉造(すみよしづくり)
- 流造(ながれづくり)
- 春日造(かすがづくり)
- 八幡造(はちまんづくり)
- 権現造(ごんげんづくり)
- 浅間造(せんげんづくり)
一見すると難しそうですが、社殿を見るポイントをいくつか押さえると、それぞれの違いが分かりやすくなります。
この記事では、神社の本殿を見るときに知っておきたい基本的な建築様式について、できるだけ簡単に紹介します。
目次
本殿とは常設の神座で、古くは本殿は設けず神籬・磐座を依り代と考えた
本殿とは神様をお祀りするための中心的な社殿を言います。
しかし、最初から現在のような本殿があったわけではありません。
古代の人々は、山や岩、木などの自然物を神聖なものとして、時には神籬(=木を植えて神座としたもの)や磐座(=岩を集めて神座としたもの)を立てて祭祀を行っていました。
その代表的な例が、奈良県桜井市の大神神社です。大神神社では三輪山そのものを御神体としてお祀りしており、一般的な神社に見られる本殿を設けず、拝殿の奥にある三ツ鳥居を通して三輪山を拝します。
このように古代は自然物に神が宿ると考え、自然物そのものを神聖な場所として祭祀が行われていました。
しかし、6世紀になると大きな転機が訪れます。それが仏教の伝来です。
仏教とともに寺院建築をはじめとする高度な建築技術や文化が伝来すると、日本でも恒常的な宗教施設が発達していきました。
神社でも、こうした社会の変化や仏教の影響を受けながら、神様をお祀りするための社殿が整えられていったと考えられています。
なお、今回は神社の本殿の形式が整えられていったことを仏教の伝来に焦点を当てて紹介しましたが、実際には様々な要素が影響しています。より専門的な分析には多面的な検討が必要になるでしょう。
本殿の種類と見るときのポイント
本殿の建築様式を見分けるとき、まず注目したいのが、
①入口の位置
②屋根の形 です。
妻入り型と平入り型
本殿の建築様式を見るとき、まず注目したいのが「御扉の位置」です。

御扉が屋根の「棟」に対して垂直になる側にあるものを妻入り、棟に対して平行になる側にあるものを平入りといいます。
妻入り:古代の住居形式から発展した形か
妻入りは、建物の妻側を正面とする形式です。
古代の住居形式との関連が指摘されており、大社造や住吉造、春日造などが代表的な妻入りの社殿です。
平入り:高床式の穀物倉庫から発展した形か
平入りは、建物の平側を正面とする形式です。
高床式の穀物倉庫などとの関連が指摘されており、神明造や流造などが代表的な平入りの社殿です。
切妻造と入母屋造
代表的なものに、切妻造(きりづまづくり)と入母屋造(いりもやづくり)があります。
切妻造りは二方向に流れる逆V字型の屋根
屋根が二方向に流れる、いわゆる「逆V字型」の屋根です。
神明造、大社造、住吉造、流造など、多くの神社建築で見ることができます。

入母屋造りは四方向に流れる複雑な屋根
屋根の上部が切妻造のようになり、その下部が四方向に屋根を流す形式です。
神社建築だけでなく、寺院や住宅など、日本の伝統建築で広く用いられてきました。
権現造など、複雑な社殿構成を持つ建築でも見ることができます。

千木と鰹木
神社の本殿の屋根上には、特徴的な構造がのっています。
それが、千木(ちぎ)と鰹木(かつおぎ)です。
内削ぎと外削ぎの千木
千木は、本殿の棟の両端から斜め上に伸びている部材です。
もともとは建物をつくるために必須の構造的な部材であったものが、後に装飾的・象徴的な意味を持つようになり、構造的に不要となってからも残されてきたと考えられています。
千木には、先端の削り方によって、
- 内削ぎ(うちそぎ)
- 外削ぎ(そとそぎ)
という区別があります。
内削ぎ

外削ぎ

鰹木
千木の間に横向きに並んでいる、丸太状の部材が鰹木(かつおぎ)です。
鰹木の起源についても諸説ありますが、古代建築において屋根を押さえるために棟上に置かれた部材が発達したものとする説がありますが、現在では装飾的な役割も持っています。
鰹木についても、「奇数は男神、偶数は女神」と説明されることがあります。
しかし、これも鰹木の本数だけで御祭神の性別を判断できるものではありません。
鰹木の本数は、社殿の規模や建築上の構成などによって異なります。

千木の形と鰹木の数でご祭神の性別がわかるか
千木について「外削ぎは男神、内削ぎは女神」と説明されることがありますが、千木の削ぎ方だけから御祭神の性別を判断することはできません。
千木の形は、神社ごとの伝統や社殿の建築形式など、さまざまな要素が関係しています。そのため、千木を見て「この神社は男神を祀っている」「こちらは女神を祀っている」と判断するのは適切ではありません。
また、鰹木についても「奇数は男神、偶数は女神」と説明されることがありますが、これも千木と同様に鰹木の本数だけで御祭神の性別を判断できるものではありません。
鰹木の本数は、社殿の規模や建築上の構成などによって異なります。
このように、千木と鰹木は現在では神社を象徴する特徴的な部材ですが、その起源や役割については、古代建築との関係を含めてさまざまな考え方があります。
「男神だからこの千木」「女神だからこの鰹木」と単純に覚えるのではなく、神社建築を特徴づける伝統的な部材として見るとよいでしょう。
神社本殿の代表的な建築様式
ここから具体的な建築様式について説明していきます。
大社造:妻入り・切妻造


形式:妻入り
屋根:切妻造
主な神社:出雲大社、須佐神社(島根県)
大社造は、出雲大社に代表される神社建築です。切妻造の屋根で、正面に妻側を向けた「妻入り」の形式になっています。
住吉造:妻入り・切妻造

形式:妻入り
屋根:切妻造
主な神社:住吉大社(大阪)
住吉大社は住吉造を「神社建築史上最古の様式の一つ」と説明しており、大嘗祭で造営される大嘗宮との類似も指摘されています。
神明造:平入り・切妻造

形式:平入り
屋根:切妻造
主な神社:伊勢の神宮
神明造は、伊勢の神宮に代表される建築様式です。
切妻造の屋根で、棟と平行する側に入口がある「平入り」となっています。高床式の穀物倉庫を思わせる外観を持つことが特徴の一つです。
なお、伊勢の神宮の社殿は、一般的な神明造の中でも特に「唯一神明造」と呼ばれており、掘立柱を用いるなど、独特の古式を伝えています。
神明造は伊勢の神宮を象徴する建築様式であり、その影響を受けた神社にも広く見られます。
流造:平入り・切妻造

形式:平入り
屋根:切妻造
神社:上賀茂神社、下賀茂神社、伏見稲荷大社
流造は、神社で非常に多く見られる建築様式で、全国各地に広く分布しているため、神社を巡っていると目にする機会の多い建築様式です。
切妻造・平入りで、正面側の屋根が長く伸びていることが特徴です。
神社本庁では、流造を神明造から派生した形式の一つとして紹介しています。
浅間造:平入り・複合型

形式:平入り
屋根:複合型
神社:浅間神社
※写真は富士山本宮浅間大社
浅間造は、静岡県の富士山本宮浅間大社に代表される非常に特徴的な建築様式です。
富士山本宮浅間大社の本殿は二層の楼閣造で、下層が寄棟造、上層が三間社流造となっています。
つまり、下に大きな建物があり、その上に流造の本殿が乗っているような独特の姿をしています。富士山を背後にすることを想定した美しい建築様式です。1階部分は入母屋造・寄棟造でその上に流造の社が乗っています。
八幡造:平入り・切妻造

形式:平入り
屋根:切妻造
神社:宇佐神宮、石清水八幡宮
八幡造は、本殿が前後二つの建物から構成される独特の形式です。
後殿と前殿の間には「造合(つくりあい)」と呼ばれる部分があります。
宇佐神宮の本殿では、後殿が内陣、前殿が外陣として機能する構造になっています。
二つの建物が連続して一つの本殿を構成しているところが、八幡造の大きな特徴です。
権現造:平入り・入母屋造

形式:平入り
屋根:入母屋造
神社:日光東照宮、大崎八幡宮
権現造は、本殿と拝殿の間に幣殿などを設け、それぞれの建物をつないだ複合的な社殿形式です。
本殿・幣殿・拝殿が一体となった複雑な構成をしているため、屋根も複雑になります。
また、江戸時代の建築らしく、彩色や彫刻などを多用した華やかな社殿も多く見られます。
仏教建築などの影響も受けながら発達した、神社建築の一つの到達点ともいえる形式です。
なお、「権現造」という名称は、単に本殿そのものの形だけを指すのではなく、複数の社殿が複合した建築構成を指す言葉として理解すると分かりやすいでしょう。
神社の本殿と御祭神には関係がある?
ここで気になるのが「建築様式と御祭神には関係があるのか」ということです。
結論から言えば、「特定の御祭神だから必ずこの建築様式になる」という直接的な決まりがあるわけではありません。
ただし、歴史的には有名な神社の社殿形式が、その神社の信仰とともに各地へ広がっていった例があります。
たとえば
伊勢の神宮 → 神明造
出雲大社 → 大社造
春日大社 → 春日造
というように、特定の神社を代表する建築様式があり、その影響を受けた神社で同様の形式が採用されることがあります。
そのため、現在では建築様式と信仰の広がりが、間接的につながって見える場合があります。
本殿の建築様式は「組み合わせ」で見る
| 大社造 | 妻入り | 切妻造 | 出雲大社 |
| 住吉造 | 妻入り | 切妻造 | 住吉大社 |
| 神明造 | 平入り | 切妻造 | ※伊勢の神宮 |
| 流造 | 平入り | 切妻造 | 賀茂御祖神社 |
| 浅間造 | 平入り | 複合型 | 富士浅間神社 |
| 八幡造 | 平入り | 切妻造 | 宇佐神宮 |
| 権現造 | 平入り | 入母屋造 | 日光東照宮 |
本殿の規模を測るときは「間」という単位を用いる

最後に、本殿の大きさを見るときに使われる「間(けん)」についても触れておきましょう。
本殿はもちろん、日本の建築物の多くは梁(平側)と桁(妻側)という地面と平行のパーツが建物を構成します。梁と桁を支えているのが柱で、この柱の間の数を「間」という単位を用いて本殿の規模を測るのです。
たとえば、正面から見て柱と柱の間が三つあれば「三間社」と呼びます。ただし、古建築における「間」は、必ずしも現在の「一間=約1.8m」という実寸法を意味するわけではありません。
「何間あるか」というのは、まず柱間の数によって建物の規模や形式を表す言葉として理解するとよいでしょう。