豆知識

【神宮大麻とは】天照大御神を祀る伊勢神宮の角祓・剣祓との違いや起源・歴史・頒布時期を祝詞を引用して解説

伊勢の神宮は皇室の祖先である天照大御神をお祀りする宮であり、古代から国家の安泰と国民の平和を祈る神社として重視されています。また現在では日本国民の総氏神であると説明されて一年を通して多くの参拝者で賑わっています。

毎年、全国の神社では神宮大麻が頒布されて各家庭に届けられていますが、神宮大麻の頒布数は減少傾向にあるのが実情です。今回は神宮大麻について詳しく知っていただきたいということで神宮大麻の歴史や意義についてわかりやすく紹介してみます。

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【神宮大麻の歴史】起源・由来は中世以降に御師が頒布した御祓大麻にある

神宮大麻の起源・歴史を語るにあたっては中世以降の御師の活躍を知る必要があります。

御師とは中世以降、伊勢地方周辺で宿泊業・参宮の案内を行いながら公私の祈祷を執り行う者のことで、江戸時代の最も多い時期には内宮に271家、外宮には615家もの御師がありました。

御師は祈禱の験として祈祷の回数に応じて「千度祓」「万度祓」といった麻を配っていました。これが神宮大麻の起源であり、全国の約9割の世帯が御師の御祓大麻を受けていたと考えられています。

しかしながら、明治四年に皇祖をお祀りする格別に尊い宮である神宮を国家が大きく関与して護持していこうという方針から私的な存在であった御師が廃止され、それに伴い御祓大麻の頒布も禁止されます。ただし、全国で広く受け入れられていた神宮の大麻が完全に廃止されることによる国民の神宮崇敬への影響が大きいとして、神宮は神社に関する事務を掌っていた神祇省に対して申し入れを行い、これを神祇省は受け入れて現在でも頒布される神宮大麻が誕生したのです。

 

神宮大麻(頒布大麻)と伊勢神宮の神楽殿及び授与所で頒布される角祓・剣祓(授与大麻)では性質に違いがある

伊勢の神宮では授与所にて角祓と剣祓の2種類の御神札、神楽殿では祈祷大麻などいくつかの大麻が授与されていますが、これは頒布大麻とも呼ばれる神宮大麻と異なる性質を持っている点に注意が必要です。

以下に説明をまとめてみましたのでご覧ください。

  • 頒布大麻とは全国の神社で頒布されている大麻、すなわち神宮大麻のことで国民の平安と国の安泰を祈って頒布されている御神札をいいます。
  • 授与大麻とは神宮において授与されている大麻で、神宮に参拝に訪れた人々それぞれの祈願を込めた御神札をいいます。

以上が頒布大麻と授与大麻の違いです。

頒布大麻について明治5年4月1日に行われた「神宮大麻御璽奉行式」において当時の大宮司である北小路氏が奏上した祝詞の一節を紹介しますのでご覧ください。

天皇の大命以て、天の益人等に、朝に夕に皇大御神の大前を慎敬ひ、拝令め給ふと為て、今年より始めて、畏き大御璽とを天下の人民の家々に漏落る事無く、頒給はむとす。

上記の内容の祝詞を内宮の中重において奏上されています。この祝詞から日本全国に広く配り、天照大御神を朝夕に拝んで心のよりどころにすることを想定していることが分かります。

一方で全国どこでも受けられる頒布大麻に対して、伊勢の神宮に直接訪れて個別に天照大御神を拝み伊勢の神宮に参拝したことの証としての御神札も求められるようになり、頒布大麻とは異なる意義を持った大麻を神宮内でも授与する必要がでてきました。これが授与大麻の始まりです。

まとめると、明治5年以降に国民国家の繁栄を祈って頒布されているのが頒布大麻、中世以降、御師が私的な祈祷の験として頒布してきた御祓大麻の流れを汲むのが神楽殿及び授与所で授与される授与大麻ということです。どちらの大麻もそれぞれ修祓式という祭儀を経て頒布・授与されていますが、祭儀において奏上される祝詞でも性質の違いを明確にされています。

修祓式の祝詞

頒布大麻の場合

年毎の例の任に、天下四方の国の崇敬者等に頒布る大麻を製奉りぬれば...

授与大麻の場合

天下四方の国の崇敬者等らが、大宮に参詣でて、高く尊き大御稜威を仰奉り、広き厚き大御恵を辱奉りて請奉る任に、授与ふる大麻を製奉りぬれば...

ちなみに授与所で扱われている剣祓はその名の通り木を紙で剣のように包んだ見た目をしていますが、これは御師が頒布していた御祓大麻が祓串を剣型の紙で包むという形式であったことを踏まえたものということは非常に興味深い点です。

神宮大麻は天照大御神の御神威を象徴する大御璽であるとの説が一般的

神宮大麻の意義については御師が活躍した時代と同様に祓の験であるとする説、天照大御神の御霊が宿っているとする神霊存在説など様々な解釈がされていますが、現在は天照大御神の大御璽であるとの解釈が一般的です。

これは昭和21年の「神宮大麻及暦頒布取扱要綱」において「神宮大麻は天照大御神の大御稜威を洽ねからしめん為大御璽」と述べられている通りです。

では大御璽とはどのような意味かというと、昭和45年に神社本庁は「神宮大麻は我が国民が各自その家庭に於て日毎朝夕、神宮を敬拝し、天照皇大神の神徳を仰ぎまつるために、その対象として神宮より頒布せられる大御璽である。大御璽といふのは..神のみしるしとして皇大御神の御神威を象徴する意と拝せられる。」との見解を、さらに平成10年には「『大御璽』とは天照大御神さまの『御神徳・御神威の象徴』」との見解を示しています。

したがって、神宮大麻とはそこに神宮があるかのように毎日天照大御神を拝むための遙拝のみしるしであると言えるでしょう。

 

【神宮大麻の頒布時期について(家庭に届くまで)】9月17日の大麻暦頒布始祭を経て10月・11月ごろから各家庭に届けられる

最後に神宮大麻がどのような過程を経てそれぞれの家庭に届けられているのか紹介します。

1月上旬、奉製に先立ち、神宮では禰宜がその年の神宮大麻の奉製を開始することを大御神に奉告し、実際に大麻に御璽を押捺する大麻暦奉製始祭が行われます。

3月には大麻の包紙をつくっている和紙工場で機械の修祓式が行われ、4月には丸山斎場にて大麻の真板や麻串の御用材を伐採する大麻用材伐始祭と栃木県河内町で神宮大麻の真板になる白板紙の修祓式が行われます。

5月には愛知県春日井市にある大麻を収めるダンボールをつくる工場の修祓式が、8月には大麻を積み込むトラックのお祓いを行います。

 

ここまで神宮大麻に関するお祭りについて見ていきましたが、ここからは神宮大麻の実際の奉製の工程と頒布に関わるお祭りについて紹介します。

神宮大麻は伊勢の神宮の頒布部という部署が頒布と奉製を担当しており、頒布課奉製課に分かれます。頒布部は神宮大麻の全国への発送及び頒布を担当し、奉製課は奉製内容によってさらに第一奉製所と第二奉製所に分かれています。

大麻の奉製にあたってはまず、第二奉製所で真板と呼ばれる板部分を乾燥・製材され、あわせて大麻において信仰的に最も重要な部分である麻串が木片に紙垂を巻き付けることによってつくられます。次に第一奉製所において内宮・外宮それぞれの宮号と御璽を押捺した銘紙と呼ばれる和紙を裁断し、大和糊を用いて真板に巻き付けて「神宮司庁」の封印をした後に汚れを防ぐための薄紙が巻かれます。

 

これらの工程を経て完成した神宮大麻は順次、修祓所にて大麻修祓式という神事を行って、神宮及び全国の神社庁等に配られます。

9月17日には神社本庁及び各都道府県神社庁の代表者参列のもと内宮神楽殿において神宮大麻頒布始祭が行われ、今度は各神社庁で頒布始奉告祭が行われます。この後、個別の神社に神宮大麻が届けられ頒布が行われるのです。

最後に12月下旬には神宮大麻と神宮暦が滞りなく奉製し終えたことを奉告する大麻暦奉製終了祭が行われます。

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