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【スサノオ命と天照大御神の誓約】古事記と日本書紀で違う誓約の方法や宗像三女神と天忍穂耳尊ら五男神の親神

古事記と日本書紀では天照大御神とスサノオ命の誓約の条で宗像三女神と天忍穂耳尊などの五男神が生まれます。この時の誓約の方法やどのように神々が生まれたかは古事記と日本書紀で異なっています。

今回は古事記と日本書紀の誓約の条の違いについて紹介していきます。

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古事記と日本書紀におけるスサノオ命と天照大御神の誓約に至るまでのあらすじについて

三貴子として天照大御神・ツキヨミ尊とともに生まれたスサノオ命は地上の世界を治めるように命じられましたが、一度高天の原という天上の世界を治めている天照大御神のもとに挨拶に伺います。この時、高天の原では乱暴なスサノオ命が来たことに慌てていました。スサノオ命と対面した天照大御神は誓約というあらかじめ宣言した結果が起こるかどうかで神意を伺う卜占を行うことでスサノオ命の本心が如何なるものか確かめようということになりました。誓約の具体的な方法はあらかじめ男女どちらの神が生まれたら清い心を持っているかを宣言し、剣や首飾りを口に含んで吹き出して神々を生んで判定するというものです。

たむ
さらに詳細な方法については古事記や日本書紀で異なるので、以下の段落で確認していきます。

 

古事記と日本書紀本文・一書の誓約の条についての記述「古事記と日本書紀では宗像三女神と五男神の親が違う」

古事記と日本書紀のいくつかの記述では誓約の具体的な方法や宗像三女神の生まれた順番が異なりますので以下分かりやすく表にしてみました。

文献誓約の方法どちらの神の行動で生まれたか生まれた神の親
古事記持ち物を交換男神:スサノオ命
女神:天照大神
男神:天照大神
女神:スサノオ命
日本書紀本文持ち物を交換男神:スサノオ命
女神:天照大神
男神:天照大神
女神:スサノオ命
日本書紀第一の一書自分の持ち物を用いる男神:スサノオ命
女神:天照大神

日本書紀第二の一書持ち物を交換男神:スサノオ命
女神:天照大御神
日本書紀第三の一書自分の持ち物を用いる男神:スサノオ命
女神:天照大神

こちらの表で注目していただきたいのは古事記と日本書紀本文では天照大御神とスサノオ命は持ち物を交換して誓約を行ったのに対して、日本書紀第一の一書では持ち物を交換せずに誓約を行った点です。ここからは詳しい内容や古事記・日本書紀の別伝の内容について紹介していきます。

 

古事記では宗像三女神の親神は天照大御神・五男神の親神はスサノオ命

まずは古事記の内容を抜き出して確認します。

天照大御神はスサノオ命に「あなたの心が清いかどうかをどのように確かめようか。」と仰せになり、これに対してスサノオ命は「お互いに誓約をして子を生みましょう。」と提案された。天照大御神まずスサノオ命の剣を用いてタキリビメ命、イチキシマヒメ命、タキツヒメ命の三女神をお生みになった。スサノオ命は天照大御神の首飾りを用いてアメノオシホミミ命、アメノホヒ命など五男神をお生みになった。

誓約が終わって天照大御神はスサノオ命に「五男神は私の首飾りから生まれたから私の子である。三女神はあなたの剣から生まれたからあなたの子である。」と子の区別を決めて仰せになった。

古事記の誓約の条では天照大御神とスサノオ命は互いに持ち物を交換して誓約をした後に、その物の持ち主が親であると説明しています。

ややこしいですが、天照大御神がスサノオ命の剣を用いて生んだ神の親神はスサノオ命、スサノオ命が天照大御神の首飾りを用いて生んだ神の親は天照大御神ということです。

 

日本書紀本文では宗像三女神の親神は天照大御神・五男神の親神はスサノオ命

続いて日本書紀の内容を抜き出して確認します。

天照大御神はスサノオ命の剣を用いてタゴリヒメ、タキツヒメ、イチキシマヒメの三女神をお生みになった。スサノオ命は天照大御神の装身具を用いてアメノオシホミミ命、アメノホヒ命など五男神をお生みになった。

誓約が終わって天照大御神はスサノオ命に「その装身具は私の物である。したがって五男神は私の子であるから私が養おう。」さらに「その剱はスサノオ命の物である。したがって、三女神はあなたの子である」と仰せられた。

日本書紀の誓約の条では古事記と同様に天照大御神とスサノオ命は互いに持ち物を交換して誓約をした後に、その物の持ち主が親であると説明しています。

たむ
天照大御神とスサノオ命の誓約の条には別伝がいくつもあってややこしいですが、古事記と日本書紀本文では「親となる神は行為ではなく、物の所有権で判断する」ということに注目しておきましょう。

 

日本書紀第一・第三の一書では宗像三女神の親神はスサノオ命・五男神の親神は天照大御神

日本書紀第一及び第三の一書では両者は持ち物を交換することなく神々を生んでいます。古事記や日本書紀本文のように子がどちらに属するかについての記述はありませんが、この後の天孫降臨の条やその他の神道古典を確認すれば五男神は天照大御神の子であることは明らかです。これによってとある疑問が生まれてきますが、その疑問については次の段落でお話します。

これらの一書では天照大御神は自らが身につけていた八握剣を、スサノオ命は自らが身につけていた五百箇御統之瓊(首飾り)を用いて神を生んでいます。

日本書紀で男神を生んだら勝ちとしているのは中国の思想を大きく受けているから

古事記では女神を生んだら勝ち、日本書紀では男神を生んだら勝ちとしていますが、これは中国の儒教思想を受けていることが考えられます。日本書紀と中国の思想の関係についてはこちらの記事で紹介していますのでぜひご覧ください。

天照大御神が自分の持ち物を用いて天忍穂耳尊を生んだとする別伝があればもっと分かりやすかったでしょうが、男性を優位とする儒教思想を取り入れた結果このようなややこしい状況が生じているのではないかと考えます。

 

スサノオ命と天照大御神の誓約の条は古事記や日本書紀のどちらの記述が正しいのか

ここまで紹介してきたようにスサノオ命と天照大御神の誓約の条には記紀だけでも5つの伝承があり、どれが本来の記述であるかを判定することは困難であるため、国学者の中でも大論争となりました。

ここからは古事記と日本書紀のどちらの記述が本来の伝承を残しているのかいくつかの説を紹介します。

 

日本書紀第一・第三の一書の内容では天照大御神と天忍穂耳尊の関係性が不自然

スサノオ命と天照大御神の誓約の条は天孫降臨につながる部分として非常に重要な場面であると考えられています。具体的に言えば、誓約によって生まれた天忍穂耳尊という男神は天孫降臨の際に地上に降り天皇家の祖であるニニギノ尊の親神となるのです。

  • 古事記と日本書紀本文ではスサノオ命の行動によって天忍穂耳尊が生まれ、その神の元が天照大御神の物であったことから天忍穂耳尊は天照大御神の子と判定されました。
  • 日本書紀第一及び第三の一書では持ち物を交換することなくスサノオ命が独自に天忍穂耳尊を生んでいます。

先ほども説明したように、天照大御神の子は天忍穂耳尊でその子はニニギノ命であり、また天皇家の祖神が天照大御神であることは明らかですので、日本書紀第一及び日本書紀第三の一書の内容では天照大御神と五男神との関係が古事記及び日本書紀に比べて薄く不自然に感じられます。

また、日本書記第三の一書は出雲系の伝承であると言われていますので古事記と日本書紀本文が古来の伝承を正しく伝えているのではないかと考えられます。

 

古事記の誓約と本居宣長の意見「古事記のウケヒの段には脱落がある」

古事記の誓約の条で注目すべきは誓約の前の段階でどちらの男女どちらの神が生まれたら清き心かの条件を定めていないという点です。日本書紀の本文と一書では「男神が生まれたら清き心を持っているとする」とスサノオ命が宣言していました。これに対して古事記ではどちらの神が生まれたら清き心を持っているとするかという条件が記されておらず、誓約の後にスサノオ命が「我が心清く明かし。故我が生ら子手弱女を得つ。此に因りて言さば、自づから我勝ちぬ」と前提条件の明示がないにもかかわらず勝利を宣言しています。これについて国学者の本居宣長は古事記の誓約の段には脱落があるのではないかということを主張しました。

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